2004年08月09日

#77.広告市場変化の中長期トレンド 「マスメディア市場<その他市場」へ

2002.7.1にアップしたコラム。




これは某企業のために書いたものの一部を
これなら問題ないだろうって範囲で一般論化したものです。


要点は


マーケティングコミュニケーション市場は、
海外では「マスメディア<その他」が基本。
でも、日本では圧倒的に逆。それにはわけがある。
しかし、状況は日本も急速に海外と同じ様な状況に近づきつつある。
で、広告業界はどうなっていくのか?...考えてみよう。





■日本ではなぜ海外と逆なのか?



日本のマーケティングコミュニケーション*市場は、およそマス6兆円、SPなどのそれ以外が3兆円強だと言われている。


*:これは広い意味でのね。狭い意味では「コミュニケーション」と言えば、マスメディア利用のことを指すからね。広告屋の世界では。米国では、企業もそう言うし。


ところが、海外の先進国市場はだいたい逆で、マス:それ以外=4:6とか...いろいろだけど、まあなんにしてもマスが過半を占めてしまうと言うことはないし、ましてやダブルスコアってことはない。


なぜだろう?


理由はいろいろあるが、簡単に言ってしまえば、
「19-20世紀型のマスプロダクト市場に極度に最適化した国の構造になっていて、単一的で効率的なマス市場をつくるしかけが張り巡らされている。単一市場でほぼ一貫した成長市場ならマスを最優先で使うべき」...ってことだ。

具体的に言えば、例えば、TV局は日本中にあるけど、行政は影響力を駆使して地方局のコンテンツ制作能力を実質的に奪ってきた...というより、育たないようにしてきた。
コンテンツ制作能力があるってことは、独自の情報発信をするってことで、それは単一市場形成には邪魔でしかないからね。

だから、「キー局」システムが完成した。
大阪の局とかごく一部を除けば、ローカル番組しかつくれない状況で、圧倒的に基本は東京でつくられた番組が配信されてるわけだ。

また新聞はテレビほどじゃないにしろ、実質的に3大紙が圧倒的な力(シェア)を持っている。

とにかく日本は、1.5億人の豊かな人たちが住んでる巨大市場なのに、重要なマスメディアは全部東京に集中しているし、その選択肢も数が少ない...集中度が極めて高いわけだ。

集中度が高いから、複雑な手を打たなくても視聴率を稼いでる番組で計算通りに枠を買えば、それなりの認知度づくりの成果とかは保証される。

効果測定システムも他のマーケティング手段に比べればはるかに高度に確立しているしね。
計算通りに認知度とかつくれるわけだ。
これがSPとかだと、「応募者数」なんてのは見えたとしても、それがどれだけスコアに貢献したとかはぜんぜんわからないのが実情だ。

また、日本はかなり変わってきたとは言え、全体としては、かなり複雑,多層的なチャネル構造をもっている。
だから、メーカーが売りの現場に直接介入するのが、他の国と比べるとより難しいケースが多いってのもある。

そうそう、いちばん大きな理由は、この10年はともかく、それまで実質的にずっと成長市場だったということも大きい。常に、需>給だったわけだ。
他の先進国は、とっくに(70年代までにいったんどこかのタイミングで)低成長...市場飽和というか成熟化を経験してるのにね。

成長市場では、常に、「コンバージョンレート」を優先したマーケティングコミュニケーション設計になる。
コンバージョンレートってのは、新たな認知を稼いで、それをどれだけの効率でトライアル購入に繋げられるか?って指標のこと...つまり新規需要獲得優先戦略の指標だ。
(ちなみにこれと並ぶ概念は、リテンションレートで、こっちは狭い意味ではリピート購入喚起策の効率のこと。ここではもう少し広めに、顧客のブランドロイヤリティ維持効率みたいな意味でも使うつもり)

市場が成長してるなら→新規需要を開拓した方がいい→それなら、マスメディアで認知形成つくるのが最優先だ。...ってことになるわけだ。





■それで、今後は本当に逆転するのか??




日本のマスメディア支配は非常に強固に思える。
業界内に居たりすると、いろんな現実をしってる分だけ、なおさらだと思う。

しかし、ちょっと引いて状況を見てみれば、すべてが「普通の国」になっていく方向...つまり「マス<それ以外」の方向に向いていることがわかる。

順番に点検していこう。

まずはマスメディアだ。
揺るぎないように見えるマスメディアだけど、実は既に相当揺らいでいる。

まず、テレビだけど、今本当に見てるのは誰なのか?ってのがある。
ゴールデンタイムの番組はF2層(35-49歳女性)に的を絞らなきゃダメってのは、ここんとこずっと言われてきたことだよね。
逆に言えば、他はテレビなんて見てないってこと。
テレビって世帯視聴率だから、誰か見てればレーティングを維持できるわけよ。
だけど、今どき一家団欒でなんてみてないんだってば。

若い子も見てないし、子供もあんまり見てないし、オジサンはぜんぜん見てないし...ってわけ。
だから、調味料のCM入れるならともかく、多くの商品のマーケティングに使えやしないのよ。
既に実態は。

ただ、今は他にちゃんと頼れるもの...強力な代替手段がないだけなわけ。

みんなが...特に若い子がネットに張り付いてる時間はどんどん増えてるし、
ひとりあたりのTV視聴時間はあきらかに減少傾向だし、
新聞もネットのニュースとかのおかげで、部数自体落ち込んでいきそうだし(米国とかは既にはっきり落ち込んでる)、
テレビはさらに、多チャンネル化,細分化が進んで行くし...通販番組みたいな実質SPメディア化も進むだろうね...

つまり、既存のメジャーメディアの相対的な地位低下は止めようもない状況なわけ。

次に、効果測定の問題だけど、これはCRMの浸透が確実に状況を変えていくことになる。直接接触型のコミュニケーションがおいおいどういう効果を与えていくかが見えてくるようになるわけだ。
広告屋は、知ってはいてもリアルには見てないでしょ?企業のCRMを。
だから、感覚がずれていくんじゃないかと思っている。

それから、ネットやコールセンタや宅配便の進化とか、決済システムの多様化とかを背景に、メーカー直販がいろんな分野でどんどん進んでいる。
直接消費者を知るようになるわけだ。
こうなると、自ずと、リテンションレートが重視されるようになる。
リテンションレートの方がリアリティがあるんだよね。こうなるとサ。

それから産業の主役自体が、製造業から、その他多くの顧客との直接コミュニケーションこそ重要な....個々の顧客を知っているからこそリテンションレート重視に傾きがちなサービス業に移行しつつあるってのもある。
金融や通信や小口配送、外食.... それからゲームのようなコンテンツビジネスもネットゲーム化すれば、時間の問題で「直販化」するだろうしね。

また、いろんな分野で外資の存在感が徐々に大きくなってきているってのもある。
彼らは「マス<その他」文化を日本に持ち込む。

最後にもっとも重要なのは、日本は既に確実に、ゼロサム・デフレ時代に突入しているってことだ。
であれば、新規客の獲得と、既知客の深耕とどっちが大事になるか目に見えている。
リテンションレート設計が多くの場面でより重要になるに決まっている。
そうなれば、あまりリテンションレート重視の設計に役立たないマスメディアの比重が落ちるのは当然だ。

6-7年前に急に存在感を増したIT市場も、既に一種の成熟化段階に入っているのは明らかだ。例えば、PCやケータイ市場も伸び率は急速に落ちている。
もう、ニーズ市場じゃなくてウォンツ市場だし、新規獲得より、リプレース狙いのリテンションレート重視設計段階だ。





■そうなると、この業界はどうなっていくのか?



どうなるのかの前に、今どうなのかを客観的に見ておかないと、どうなるのかって説明しづらい。

で、今どうなのかだけど、日本の広告産業は、先進国の中ではかなり特殊だ。
「総合広告代理店」が圧倒的に強い状況にある。
電通とか博報堂とかADKとかだ。

「総合広告代理店」というのは、制作もメディアのバイイングもSPもPRも事業系イベントもなんでもやるけど、最大の特徴は、マスメディア枠のバイイング能力にある。

総合広告代理店を通さなきゃ、日本で最も重要なマスメディアの枠を実質的に確保できないわけだ。
だから、ヒジョーに強力な存在だ。
もちろん、なぜそうなのか?ってのは、前述の日本のマスメディアの特殊な状況が関係している。

この「総合広告代理店」というのは、海外ではほとんど似たような存在はない。

あるのは分野別の代理店だ。
クリエイティブとかPRとかね。
彼らは、それぞれの分野で独自のコンサル・ソリューション力を持ってショーバイしている。

日本では、当然、コミュニケーションコンサル能力は、実質的に総合代理店だけが高度で総合的な力を持っている。...だって、日本のマーケティングはマスを軸に設計するんだから当然だよね。

逆に言うと、その他の専門分野系の代理店やプロダクションの持ってるノウハウというかマーケティングコンサル力なんて、たかがしれているというか、良くて局所的なわけだ。

もちろん、コンサル能力のある優秀な人が総合代理店以外には決していないという意味じゃない。そうじゃなくて、「意味のある具体的な全体計画についてのコンサルティング・ソリューション」ができないのだ。リアリティのあるマスの設計抜きじゃぁね。

で、こういう状況が「マス<その他」時代になるとどうなるのか?ってのが問題だ。

どうなるんだろう?

まず、マスが圧倒的に主役の状況が変われば、仕事が専門分化してくるのは避けられない。
きっと、最終的な企業形態とかはどうあれ、海外の専門分野別代理店のようになっていくんじゃないかとまず想像できる。

...もちろん、今の「総合代理店」の圧倒的な強さを考えれば、既存の専門分野の代理店やプロダクションが力をつけて、総合代理店と並列化していくというよりは、むしろ、そういうところに「総合代理店」が資本と人材を注入して...要するに買ってしまったりして、より強力な専門分野別代理店をつくっていくという可能性の方が高いような気もするし、でも、そうじゃないような気もする...どっちになるかは予言の世界だ。
(...というか、正直言えば、私としては「こうなる」って思ってるところはあるんだけど、それは立場上書きたくない)

どっちにせよ、資本のルーツがどうであろうと、業界構造がかなり変わっていくのは避けられないだろう。

この手の変化は、気が付いたら変わっていたというようなかたちで起きる。

80年代には断片的・漠然としかわからなかった大きな社会構造変化...知価産業化が、今になって振り返ってみれば、80年代にはかなり進行していたのだとわかるようなものだ。

マスの存在が相対的に低下してくると、クライアントは、ほぼ全部「総合代理店」に丸投げから、個別分野別に発注するようになってくる。
ということは、日本の企業も海外の企業並みに、マーケティングコミュニケーション全体を、より積極的に自ら調整しなくちゃならなくなる。

...今は、調整じゃなくて、「それはダメとか、それでいいよ」って言ってるだけに近いものがある。そういう風にはやってられなくなるのだ。

(成り行きでどんどん書いてるから)書くべき順番が逆になっちゃったけど、分野別個別発注は実はかなりの程度実際に進んでいる。特に外資...それも最近入ってきたところは顕著にそういう方向に動いている。
調査だけ出す、クリエイティブだけ出す、メディアバイイングだけ出す、PRだけ出す、イベントだけ出す、ツールだけ出す、ネット関係だけ出す、ダイレクトマーケティングだけ出す... ... それぞれを個別に別のところに出す。

こうなってくると、ツール屋さんだったり、イベント屋さんだったり、ダイレクトマーケティング屋さんだったり、Web構築屋さんだったり...も、これまでとは次元の違うコミュニケーションコンサル力を持つことが重要になる。

なぜって、クライアントはいちいちディティールまで調整したくないからだ。
大枠の方向性を確認するだけで精一杯だ。
これまでは、全体計画の戦略設計を「総合代理店」がやっていたが、これから徐々に専門分野別代理店がやる必要がでてくる。
出てくると言うより、それができるところだけが、本当に伸びていくと言うことだ。

そうそう、またまたもっと前に書くべきだったことだけど、個々の専門代理店やプロダクションは相当程度に組み合わせを変えなきゃいけなくなる。業界再編成だ。

どういうことかというと、今は、実質的に「総合代理店」が扱いやすい「パーツ」レベルで下請け分化しているのだ。

ところがこれからは「課題領域」レベルで分化...組み替えしていく必要がある。

どういうことかと言えば、例えば、ダイレクトマーケティングの仕事は、デザイン屋とかツール屋とかリスト屋とか...に分解されている。それぞれがその他のパーツについてのノウハウを充分に持っていない。

これでは、前述のクライアントからの個別直接発注には応えて行きようもない。
「パーツ」レベルで専門化していてはダメで、あくまでもマーケ課題レベルで編成されている必要がある。

そんなことないよ、うちは一貫してできるってところもあるだろうが、ごくごく少数だろうし、そういうところが「高度な」コミュニケーションコンサル力を見せているとはとても思えない。たんに作業をパッケージで受けられるってだけだ。

だから、これまでとはだいぶ様相の違うかたちで、分離や吸収・合併やアライアンスがどんどん進むことになるはずだ。

随分と長々となりゆきでいっぱい書いちゃったけど、これは多分に私の希望的観測でもある。
だって、こうなった方が、プランナーとしてはお仕事遙かに充実でしょ?(^_^)
...って言うのは半ば冗談、半ば本気なんだけど、どっちにしても時間の問題...スグにこういう変化が来るのか、時間がかかるのかの違いだけで、いずれにしてもこういう方向に行くと思うよ。

Waki, Hirokazu 2002.7.1




プロモーションの割合のアップだけど、
今振り返ってみると
予想より遙かに速いスピードで進んでるね。

関連するようなことを雑記帳の方とかでも何度か書いてるけど。

こことかさ。

2004.8.9
posted by わき at 16:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 広告・マーケ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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